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今回のインタビューは、手話歌を広めようと頑張っておられる聴覚障害者で手話歌コーディネーターtomosukeさんへのインタビューです。
日本最大級の手話歌ライブD’LIVEに手話歌やダンスに出演している他、昨年2月に東京都内で開設した手話歌レッスンに1年で受講された生徒は通算100名超えております。
今回は、そういうtomosukeさんの手話歌の魅力について色々と聞いてみました。
(インタビュー者:りっちゃん・ミチ)
-tomosukeさんの簡単なプロフィールをお願いします。

(tomosuke)2歳の時におたふく風邪にかかり聴力を失いました。
幼少時代はろう学校と幼稚園のダブルスクールに通い、卒業後は聴者の学校に進学しました。
指文字や挨拶などの簡単な手話は独学で身につけました。
東京への上京を機にデフ(=ろう者)とのコミニュケーションを図りながら手話を覚えていき、六本木奈美恵さんと出逢いました。僕自身、安室奈美恵さんの大ファンでコピーダンスを踊ってたので、彼女と意気投合して、すっかり仲良くさせて頂きました。今思えば、この出逢いが僕のターニングポイントだったと思います。
当時、彼女はダンスで色々と活躍されていたので、「ダンスをやりたい」という事を相談・アドバイスを頂き、いくつかのユニットを組み、デフダンサーとして渋谷や目黒、浦安、仙台、福島などのイベントに多く出演してきました。
しかし「現状で満足せずに常に向上心を持つタイプ」なので、リズム感などスキルをもっと身につけようと、27歳の時に本格的にダンスレッスンに通いました。そのレッスンに通ったおかげで、リズム感を身につけることが出来ました。
そして、28歳の時に手話歌パフォーマーとして転機が訪れ、手話歌とダンスを平行しながら活動を続けています。
手話コーディネーターとして俳優やアーティストへの手話指導へ育成に携わりながら、2015年2月に「手話歌LESSON」を開設しました。
目次
音楽との出逢いは母の影響から
−tomosukeさんと音楽の関係についてですが、元々、歌を聴いていたのですか?どういったきっかけで歌に興味を持つようになったかを教えていただけますか。
(tomosuke)小さい頃、母が昭和の名曲をいくつか歌いながら教えてくれるという環境で育ったのか、歌うことがとても大好きでした。母が歌っていたものは、どの曲も古いものばかりでしたが、リズムが安定してとても歌いやすかったのを子供ながらに覚えています。
また、当時のテレビには(昭和の名曲)を特集した番組が多く放映されていたので、その番組をよく見ていました。なので、かなり古い歌でもいくつか知っています(笑)その中に佳山明生の「氷雨」という歌があるのですが、実は僕の十八番です(笑)
僕が生まれた頃には大ヒットした歌なので、僕の世代ではあまり知られてないと思いますが、年配の方はよくご存知です(笑)
初めてCDを買ったのは、篠原涼子の「いとしさと切なさと心強さと」でした。年代的にもう古いものになっていますが、今もなお、歌い継がれてる名曲になっているのがとても嬉しいですね。
−お母様のおかげで、たくさんの歌を聴くようになったのはとても素敵なことですね。
あるきっかけで手話歌パフォーマーへ

−なぜ手話歌をやろうとしたのですか?いつからその手話歌を始めたの?
(tomosuke)そもそもダンスが好きだったので、何組かユニットを組んで都内を中心に活動していました。
そんな中、いつもお世話になっているイベント(D’LIVE)の出演条件に「手話をつけること」が新たに加わったことがきっかけだったんですね。
しかし、ダンスに手話をつけるのは少し抵抗があったので、手話歌とダンスを切り離してやりたいと要望を受けてくださったのが始点となって、今があります。
実を言えば、手話で歌を歌うのは得意な方ではなかったんです(笑)手話歌パフォーマーとしてご活躍されている大御所達を見てきたことがあっても自身で手話歌を披露するのは全くの皆無でした。
でも、事務局への要望を受けてくださったことで、これもいい機会だと思い、僕なりの手話歌でやってみようとソロデビューしたのが7年前のD’LIVE vol.7の時でした。
初めて手話歌披露したのは平井堅の「僕は君に恋をする」これは当時話題になっていた井上真央出演の「僕の初恋を君に捧ぐ」の主題歌です。初めてのソロ手話歌にも関わらず、お客様から多くの評判を頂いて「こんな自分にも伝えられるんだ!」と逆に感動したのは今も覚えていますね。それから、福島や仙台、渋谷、目黒などのイベントにも出させていただきました。「また手話歌を見たい!」の一言が、僕を動かしている源となっています。
−『D’LIVE』とは、毎年12月に開催されるKoyama Driving Schoolチャリティー手話ライブのことですね。tomosukeさんの出演した過去の手話歌全部見てみたいですね(笑)
手話歌作りにとって大切なこと

−歌に手話をつける時に気をつけていることはありますか?
(tomosuke)手話をつける前に、歌詞に秘められた想いを「解釈」することから始まるのですが、解釈するテーマ性の方向がずれないように気をつけています。例えば、歌詞に描写されている主人公はどういった人なのか、どのような背景があって、どんな想いがあるかを物語していく過程で、ひとつひとつの軸がブレないようにしています。
感受性はあとからつくものではなく、その一瞬に感じたものが本当の「感受性」だと考えているので、まず歌詞を読んで、その一瞬に感じたインスピレーションを大事にしています。思い浮かんだものはすぐメモを取ったり、忘れないようにパソコンにインプットしておいたりして、壮大な創造力を働かせています!(笑)
どの歌にも必ず(作られたきっかけ)があるはずなので、その歴史を探るのもまた面白いですよ。
−歌に手話をつけるのは、tomosukeさん1人でやっているんですか?
(tomosuke)はい、全部1人でやってます。
まず歌詞を読んでたくさんマインドマップを浮かべて、イマジネーションする。そのときに世界が見えてきたら、ピンッ!ピンッ!ピンッ!と思いつくんです(笑)
「なぜそのように感動する解釈が出来るんですか」と良く言われるのですが、僕自身も分かりません(笑)ですが、それが自分の生まれ備わった特性なんだと思うんです。
学生の時は読書の感想文を思いつくまま書いたり、ポエムを作ったり、百人一首の解釈を研究したりなど、言葉に関しては敏感でした。「感受性が豊かな子」と成績表にも書かれたほど(笑)でもそれが今につながって、その経験と知識が役になっているのだと思います。
音楽のリズムは聴覚障害にとっての至難の業
聴覚障害ってリズムつかむのが難しいイメージが強いのですが、どうやって身につけているのですか?
(tomosuke)補聴器をつければすべてが分かるとは限りません。確かにリズムが難しいイメージがあるかと思いますが、僕の場合はYouTubeなどの動画でアーティストの口パクを見ながら、一緒に口ずさむことでリズムを身につけています。また、いつもお世話になっているカウントさん(リズムを合図してくれる)に口パクで歌ってもらい、リズムを確認することもあります。
−今は手話歌が苦手なろう者も多いが、そういう方々に向けてメッセージをお願いできますか?
(tomosuke)ろう者にとって言語である手話で歌うことは少なからず抵抗を感じるかもしれません。その人が持っている軸によって(手話歌の定義)が分かれますが、その定義の中にある「歌詞をそのまま手話で歌う」ことはさすがに僕も抵抗があります。
だからこそ、その歌に秘めた想いを解釈し、手と表情でその歌が持つ世界を届けるのが手話歌のあるべき姿だと勝手ながら思っています。

手話歌は、その人が持っている「感受性」を反映させて世界を描いたものと見ているので、大変興味深いものです。歌は、(きっかけ)があって作られたものがほとんどなので、何気なく歌っている歌、もしくは好きな歌にどんなきっかけがあって作られたのかを、まず歴史を探ってみてください。
そうすると主人公が見えてきたり、感情を感じられたりなど色々浮かんでくると思います。次題に自然とその歌の世界が見えてくるようになりますよ♪
−なるほど。そんな話聞いてみるとレッスン受けたくなりますね(笑)
手話歌の将来で目指していること
−tomosukeさんの手話歌レッスンの今後について、どう発展したいですか?

(tomosuke)手話をお勉強されている聴者には、手話を覚えようと思ったきっかけは様々ですが、その中に「手話歌を見て手話を覚えたいと思ったのがきっかけ」とコメントがひとつでもあれば、それこそ手話歌の意義があります。
レッスンでは「感受性を高める」のはもちろんのこと、マインドマップを浮かべることで創造力を働かせたり、想いを描写した手話で歌うころで世界が見えてきたりなど、手話で歌うことの「醍醐味」を等身大で伝えています。

まだスタートラインに立ったばかりですが、その醍醐味が伝染していって、手話に興味を持ってくれる聴者が増えればと思います。手話を知ることでデフとのコミニュケーションを図る、手話を通じて聴者へ伝える、この連動が大きく連鎖していって、聴者とろう者がお互い思い合える世界になれたら…と勝手ながら思っています。
レッスンに通って「心の在り方が変わった」「人に思いやりを持てるようになった」「キレイになったねと言われるようになった」など、コメントが多く寄せられるようになりました。手話歌はただ手話で歌うことだけではなく、歌詞に秘めた意味を知ることで内面が磨かれる効果があるとのこと。そこまで効果が出てくるなんて本当に不思議なものですね♪
手話歌LESSONは聴者とろう者が集うコミュニティ
−手話歌レッスンに参加されている聴者とろう者の割合を教えてください。
(tomosuke)レッスンの参加者には聴者が多いのですが、聴者には手話ができる人、できない人が半々です。
参加した理由を聞いてみると、「手話を覚えたい」・「手話を使ってろう者と話したいから」・「手話で歌を歌ってみたいから」と様々ですが、ただひとつ言えるのは【手話】そのものに興味を持っていること。
少しずつですが、ろう者も増えてきました。「音楽なんて興味ない」・「手話で歌うことに抵抗ある!」というイメージを持たれがちですが、実際に聞いてみると「歌詞にどんな意味が込められているか知りたいから」・「手話での表現力を高めたいから」「tomosukeさんの感受性に感動したから」とか。
このレッスンがお互いにとって、コミュニティのひとつになれば、とても嬉しいですね。
開講して、もう1年経ったので、生徒さんにも感受性や表現力が身についてきていると思います。
タイミングを見て、発表会を開催しようと思っています!
日程や場所などは、これから詰めていくので、決定次第、宣伝します!
ご都合良ければ、ぜひ観にきてください!!
−tomosukeさん、ありがとうございました。顔がキラキラしてて手話歌は楽しいことをみんなに知ってもらいたい!という気持ちが凄い伝わっていました。ぜひ発表会の日程が分かりましたら、こちらでも宣伝しますね(笑)
手話歌はろう者からは敬遠されることも多いですが、それは歌をそのまま手話に変えているためろう者が見るとなんと言っているのか分からなくなるため。
そうではなく、歌の意味を深く知り、それを手話や表情で伝えていくと、その歌の魅力を伝えることができる・・ということがよく分かりました!
tomosukeさんは手話歌をこれからももっともっと広めていって、歌の魅力をろう者にも聴者にも伝えていってほしいですね!
文責:りっちゃん・ミチ(HAPUNEスタッフ)